ポップ・ソングの可能性
石橋英子を「PANICSMILEのドラマー」と捉えている人が居るならば、是非ともこの機会に「シンガー・ソング・ライター」としての彼女の音楽を聴いてみて欲しい。最新ソロ・アルバムdrifting devilは多数のゲスト・ミュージシャンを迎えて制作され、楽曲は音の粒がアグレッシヴなものから、ゆるやかに唄とメロディが紡がれていくものまで、色彩感に富んだグッド・ポップ・ミュージックが詰まっている。インタビュー中、”可能性”という言葉を何度も口にした彼女にとって”ポップ”とは一体どんな存在なのだろうか。
インタビュー & 文 : 井上沙織
INTERVIEW
やる度に変化していくから、曲に可能性を感じている
—元々どのようなきっかけでソロを始めたんですか?
石橋英子(以下石橋) : 5〜6年前、映画を作ってた友達に、遊びでMTRで録ったものを聴かせたら、映画で使いたいって言ってくれたんです。それで映画のためにもっと作って、それからライブ・ハウスとか映画の上映会とかで売るためのCD-Rを作りました。CD-Rを何枚か出して、それを完成させたのが 1stです。その頃からソロ活動が本格化してきました。
—CDがリリースされてから約2ヶ月経ちますが、何か曲に対する考えや心境に変化はありますか?
石橋 : この2ヶ月でライブをたくさんやって、曲に可能性を感じています。今、ソロやデュオなどの少ない人数から、バンド編成の大所帯まで、いろんな形態でライブをやっているんですが、やるたびに変化していくから、長く演奏していけると思います。
—歌うことは好きですか?
石橋 : 今回のアルバム、ボーカルの音が大きいからか、よく「歌うことに積極的になったんですか?」とか聞かれるんです。嫌いじゃないんですけど、まだライブで歌うのは緊張するし、のびのびと歌うって感じではないですね。
—七尾旅人さんや山本精一さんをはじめ、いろんな方と共演されていますが、これは石橋さんから誘われたんですか?
石橋 : はい。結構前から一緒にやらせてもらってる人とか、同世代の気の置けない仲間と共演させていただきました。
—共演したことで相互効果みたいなものは生まれました?
石橋 : 皆さん受け入れる心があって、すごく愛情深い。愛情が才能になっている人たちだと思います。信頼している人たちなので、曲に対する解釈の仕方が違っても、こうしてほしいとかは全く思わなかったですね。それより感じたことをそのまま出してもらえたらすごく嬉しいし、曲にも新しいエッセンスが入ってきて広がりが出てきたりする。一緒にやってて楽しいし、すごく勉強になります。
—これから共演したい方はいますか?
石橋 : いろんな方と共演したいですね。2月末にはジャンニ・ジェビアさんという、イタリア出身のサックス奏者の方と一緒にドイツとイタリアでライブをするんですが、彼は禅の修業でよく日本に来ていて、一緒にライブやったりしてるうちに仲良くなった。今作で共演した方も今まで出会ってきた方も、旅をしているうちにふっと出会った方達ばかりなので、きっとこれからもそうやって出会っていくんだろうなと思います。
”ポップ”っていうのは突き進んでいかなきゃいけないと思う
—今作はとてもポップですよね。物語性があるというか、美術館の入口から出口まで、いろんな作品を見て周っているような感覚がしました。流れは意識して作ったんですか?
石橋 : 曲の流れは、私だけではもう収集がつかなくなってしまったので、七尾旅人さんに考えて頂きました。凄く短い期間でほとんどの曲を作ったので、その期間に感じていたり意識していたり、夢で見たこととかが一気にいろんな形で出たのかな。それで多分一貫性がある中を巡っているように感じたのかもしれないですね。
—石橋さんの曲を聴く上で、"物語性"って重要な要素だと思います。
石橋 : 歌詞って物語性があったほうが人に伝わると思うんです。普遍的なものを与えるひとつの手段というか。もちろん自分の想いを伝えることも大事だと思うんですけど、私は物語性を重要視してしまう。自分で書いているものではあるけれど、無意識に物語の中に出てしまうものに可能性を感じるんですよね。その場所にしかないものが、そこから広がりを見せることもある。物語のほうがかえって個人的な、固有的なものになると思います。
—自身のやりたいことを突き詰めるというよりは、多くの人に伝えることを意識されているのでしょうか?
石橋 : 私自身のやりたいことは自分でもわからないくらいなので、不特定多数を対称にした、広い範囲を想定して作っているのか、と言われたらちょっと違うんです。でも音楽を作る以上、そこに祈りのようなものがあるべきだと思うんです。例えば、寝る前にお祈りとかして、最初は自分の身近な人のことだけ考えていたはずが、いつのまにかその友達のことまで考えちゃう、みたいな感じ。求めないうちに祈りだけが一人歩きして広がっていけばいいなと思って音楽やってます。
—石橋さんにとって"ポップ"とは何でしょうか。
石橋 : よく「ライブはアヴァンギャルドだね」って言われるんですけど、ポップっていうのは突き進んでいかなきゃいけないと思うんですよ。新たに開拓したり、在るものをブチ壊して新たな形を提示していくことは大事な要素だと思います。だからCDをそのまま再現したいとは思っていないです。音源の中だけでやろうとすると、どんどん干上がっていっちゃう。日々変わっていくことに敏感になって、自分の中で変容していくものをそのまま表現することがポップなんじゃないかなって思います。
LIVE SCHEDULE
- 2月6日(金)下北沢lete
- 2月08日(日) @高円寺 SHOWBOAT
open/18:30 start/19:00 adv/3,000yen
- 2月14日(土) @下北沢 LADY JANE
open/19:30 start/20:30 charge/2,700yen
- 2月20日(金) @秋葉原CLUB GOODMAN
w / ドラびでお×勝井祐二(ROVO,BondageFruit,etc) / 山本達久(NATSUMEN,etc)×千住宗臣(ウリチパン郡,etc)featVJ.タグチフミヒト(Feedback Glass&Cymbals/円盤)
open/18:30 start/19:00 adv/2,800yen
- 2月28日(土)〜09年3月8日(日)Gianni Gebbiaとのドイツ、イタリアツアー
4日 Venezia,Italy
5日 Roma,Italy
6日・7日 Milano,Italy
- 5月22日(土) 秋葉原 CLUB GOODMAN
- 5月30日(土)大阪/扇町ムジカジャポニカ
LINK
石橋英子 website http://www.eikoishibashi.com/
石橋英子 MySpace http://www.myspace.com/eikoishibashi
drifting devil スペシャル・サイト http://www.myspace.com/eikoishibashi
PANICSMILE website http://panicsmile.com/
石橋英子
茂原市出身の音楽家。シンガー・ソング・ライターであり、数々のミュージシャンとのセッションにも参加。ピアノとドラムを主体に、時々フルート、ヴィブラフォン等も演奏する。