──今回、クラムボンの「NOW!!!」を24bit/48kのHQDでリリースした訳ですが、ミトさんにとっての「良い音」って、どんな体験から始まっていますか?

自分で意識して音楽を聞くようになったのが中一くらい、80年代のハイファイの全盛期だったんですよ。メタル・カセットとか、ラジカセのスーパー・ウーハーとかが流行った頃ですね。それで当時の音源をいかにキラキラした音で聞くみたいなところがきっかけだったんだけれども、CDは3000円以上するから、なかなか買えない。それで、LPを買うようになった。神保町の中古レコード屋に行くと、3枚100円で買えたりしたから。ともかく、一杯聞きたかったんで、LPを買って、親父のステレオでカセットに落として、それを自分のラジカセで聞くようになった。メタル・カセット使って、少しでも良い音で録音しようとしたりしてましたね。

──じゃあ、アナログ盤のサウンドで育ったんですね。

もう際限なく買っていましたからね。1万枚以上、持っていますよ。今はほとんど聞くことはないですけれど。でも、そうやってアナログ盤を聞いていたから、CDを聞くと、どれを聞いても、同じレベルで、同じ音で鳴っているってことに、かなり早くから何でだろう? って疑問は持っていたんですよね。自分で作品を作る上でも、CDのフォーマットに合わせなきゃいけなくて、そこで作品をリミッティングしているというのにストレスを感じる部分があったから、今回、高音質の配信をやってみたのは、とても良い経験でした。そんなにオーディオに詳しくないファンの人でも全然違う、リアルで良い音なんだって分かってくれている。それを知って、自分が考えてきたことが間違ってなかったんだと思えたし、こういうアクションを起こすことが出来て良かったと思いましたね。

──パイオニアのPDX-Z10はHQDのファイル音源を聞くのにうってつけのレシーバーなんですが、これで聞いてみたサウンドはどうですか?

癖のない素直な音ですね。作ったそのままの音を聞かせてくれる気がします。今日はおおはた雄一くんのライヴを僕が録音、ミックスした音源も持ってきたんですけれど、USBメモリーを刺せば、持ってきたファイル音源をすぐに聞くことができるのも良いですね。こうやって、ミックスしたそのままの音を聞くって、なんかワクワクするところがあるじゃないですか。今までは何かのメディアに落とし込んで聞いていた。でも、これからはスタジオで「はい、ミックス終わりました、聞きましょう」って言って、ミュージシャンが聞くのと同じ音を聞くことができる。同じ瞬間に立ち会えている訳じゃないけれど、でも、ファイルはまったく同じですからね。それは新しい体験だと思う。

──PDX-Z10はLAN接続もできるので、やろうと思えば、遠くのスタジオで作ったばかりの音をここで聞くこともできます。

僕は小淵沢にあるスタジオでレコーディングをすることが多いんですが、実はスタジオの回りはまだ光回線が引かれていないんですよ。それが通じると、もっと色々やりやすくなると思うんですが。でも、ミュージシャンが新しい音を作って届けることも、あるいは、オーディオ・メーカーがこういう新しいレシーバーを作ることも、そのきっかけにもなると思うんですね。社会を循環させていく力になるというか。そのためには誰かが何かを始めないといけない。それによって、ネットで音楽を聞くということもポピュラーになっていくだろうし。あと、高音質配信が可能になったことで、ミュージシャンが作る音ももっと独特の音が増えていくと面白いですね。


インタヴュー/構成 高橋健太郎
写真 丹下仁

1975年5月6日生まれ。東京都出身。専門学校で出会った原田郁子、伊藤大助と1995年にクラムボンを結成。ベース、ギター、キーボードを担当し、デビュー以来、ほとんどの楽曲を書き下ろしてもいる。様々なアーティストへの楽曲提供や、木村カエラやtoe、タラチネなどのプロデューサーとしても知られる、現在の日本の音楽シーンのキーパーソンだ。ソロ・プロジェクトとして、micromicrophone、dot i/o、FOSSA MAGNAなどの名儀でも活動。アヴァンギャルドからポップまで、あらゆる音楽のヘヴィー・リスナーで、クラシック音楽を聞くイヴェント”Hardcore“Classics”Tunes”の主催者でもある。